プロ野球のドラフト会議は1965年から始まりました。
背景としては、戦力の均等化や、膨張する契約金などを抑える目的がありました。
一方で、選手は自分の好きな球団を選ぶことができず、プロ入りを拒否する選手も続出しました。
希望球団以外に指名されて、悔しさや不満を示す選手などが報じられると、その度に選手側に球団を選ぶ権利のないドラフト会議の存在意義について議論が起こります。
そういった声にこたえるようにできたのが逆指名制度です。
逆指名とは、選手が事前に入団したい球団と交渉ができる画期的な制度でした。
しかし、ドラフト会議の本来の目的を損なうこともあり、何度かの変遷を経たのちに、現在は廃止されています。
今回は、様々な理由から物議を醸した逆指名について、深堀していきます。
プロ野球の逆指名とは、選手側が入団したい球団を指名する制度
プロ野球の逆指名とは、入団を希望する球団を選手の方が指名し、指名された球団がドラフト会議でその選手を独占的に指名・獲得できるというものです。
それまでも、ドラフト会議前に、有望選手が「希望する特定の球団以外は行きません」など、明確に自分の意思を表明することを逆指名と呼んでいました。
しかし、あくまで希望であり、希望球団以外の球団が強硬指名するケースも数多く起こりました。
逆指名が正式に制度として開始されたのは1993年のドラフト会議からでした。
この制度では、高校生は対象外となり、大学生・社会人のみが逆指名できるといういびつなシステムでした。
初めて逆指名が導入された1993年のドラフト会議で、実際に逆指名で指名・入団した選手は計18人です。
逆指名は高校生は対象外。その不公平感は否めない
1993年から始まった逆指名制度ですが、開始当初から問題が山積します。
まず、高校生は逆指名できないという点です。
これは、高校生は未成年であること・事前交渉の激化による教育現場の混乱などが理由とされており、高校野球連盟からも高校生の逆指名反対の意向が示されました。
そのため、高校生の指名に関してはこれまで通り、球団からの入札・重複した場合はクジを行うという方式が継続されました。
逆指名導入最初のドラフト会議でも、福岡ダイエーホークスを希望していた宇和島東高校の平井正史選手がオリックスブルーウェーブに指名されるなど、その不公平感は否めませんでした。
1995年はPL学園の福留孝介選手に7球団が入札、近鉄バファローズが交渉権を獲得しましたが、読売ジャイアンツか中日ドラゴンズを希望していた福留孝介選手は入団拒否。
社会人の日本生命入社後、1998年ドラフト会議で改めて逆指名で中日ドラゴンズへ入団しました。
逆指名はマネーゲームの温床か?廃止へと向かうきっかけとなった一場事件
2004年、明治大学の一場靖弘選手に対し、読売ジャイアンツが栄養費の名目でいわゆる裏金を渡していたことが発覚します。
後日、阪神タイガースや横浜ベイスターズでも同じ目的で金銭の授受が行われていたことがわかりました。
これは、各球団が一場靖弘選手の逆指名(当時の制度名は自由獲得枠)を得るため行ったことであり、大きな問題となります。
プロ野球球団が有望選手を獲得するために、表に出ない金銭のやり取りが存在しているという噂はこれまでも絶えませんでしたが、事実とわかるとその衝撃は大きいですね。
最終的に一場靖弘選手は、その年からプロ野球に参入した楽天イーグルスに1位指名で入団します。
騒動の影響もあり、プロ通算6年で16勝と、その期待に応えることはできませんでした。
結局、逆指名とはマネーゲームの温床になるという懐疑的な見方がぬぐえず、その後希望入団枠など何度かの制度の変更がなされたのちに廃止され、かつての入札制度に戻っています。
江川卓選手の入団時に逆指名が使えたら歴史は変わっていた
逆指名と言えば、怪物江川卓選手獲得を巡る、ドラフトにまつわる一連の動きは球界を揺るがす大事件となりました。
読売ジャイアンツ入団を希望していた法政大学江川卓選手は、クラウンライターライオンズからの1位指名を拒否。
当時の野球協約で「ドラフト会議で交渉権を得た球団がその選手と交渉できるのは、翌年のドラフト会議の前々日まで」とされた一文を「ならば前日であれば可能」と独自解釈。
クラウンライター1位指名の翌年のドラフト会議前日に突如読売ジャイアンツと契約を交わした「空白の一日」は、大きな社会問題となりました。
これを却下された読売ジャイアンツは激怒し、翌日のドラフト会議をボイコット。
江川卓選手は4球団から1位指名を受け。阪神タイガースが交渉権を獲得します。
その強硬指名の胸の内には「巨人や江川に好き放題されるわけにはいかない」という他球団の意地もあったのでしょう。
揉めに揉めたこのトラブルは、最終的に当時の金子コミッショナーの「強い要望」として、阪神タイガースに入団し、即読売ジャイアンツへトレード、という結末を迎えます。
江川卓選手はプロ入り後も、最後までそのダーティーなイメージが付きまとってしまいました。
当時、逆指名制度があったらこのようなトラブルはそもそも起きず、江川卓選手の野球人生も大きく変わっていたことでしょうね。
協約違反は到底許されることではありませんが、今でも複雑な気持ちになる事件です。
プロ野球の逆指名とは?【まとめ】
今回はプロ野球の逆指名とは?というテーマで、その意義や問題について解説しました。
ドラフトの目的が、本来の戦力均等化であるならば、完全ウェーバー制(最下位の球団から順に好きな選手を獲得できる)にすべきとの意見もあります。
一方で、選手側からすると、行きたい球団に行けないのは、職業選択の自由に反することだという声も根強くあります。
不利な制度があると、その抜け道を模索するのは、どの世界でもあり得ることです。
ならば、ある程度選手本人の意思が反映される制度にしていくことも必要かもしれません。
球団側も、自分の球団を選んでもらえるための企業努力が仏ようで、それがプロ野球界をより活性化させることにつながります。
逆指名とは、特定の人気球団やお金持ちの球団に有望選手が偏るリスクはありますが、選手のピュアな思いを叶える、ポジティブな制度であってほしいですね。