ピッチャー返しとは、バッターがマウンド上の投手めがけて打球を放つことです。
鋭い打球がピッチャーを襲うことから、ピッチャー強襲とも言われます。
基本的にはピッチャーにわざと当てるというよりは、センター方向へコンパクトに打ち返すバッティングです。
投球動作を終えた直後のピッチャーにとって、自分に向かってくるライナー性の打球に反応し、素早く処理することは至難の業で、時にはピッチャーの身体に当たってしまうこともあります。
至近距離で強烈な打球を当ててしまうと、大きなケガにつながりかねません。
その危険なピッチャー返しの多くは、意図せず打球がまっすぐピッチャーに向かっていくことがほとんどですが、プロ野球の世界ではわざとピッチャーを狙って打つ選手もいたようです。
ただ、それには「ピッチャーに当てる」という強い決意だけでなく、高い技術が必要です。
今回はピッチャーを危険にさらすピッチャー返しについて掘り下げてみます。
ピッチャー返しをわざと狙った?
昭和の名投手であり、後に監督も務めた、元西武ライオンズの東尾修選手は、巧みなコントロールが持ち味で通算251勝を挙げ、一時代を築きました。
その一方で、打者の内角を鋭くえぐるピッチングも特徴です。
そのため、バッターにデッドボールを当てることが多く、20年の選手生活で通算のデッドボールは165個と、今でもプロ野球最多記録となっています。
その東尾修選手に、ある試合でデッドボールを当てられたのが、元南海ホークスの主砲門田博光選手。
「ワザにはワザで立ち向かって行く」と決心した門田博光選手は、東尾修選手に打球を当てるためにバットスイングの角度を調整し、ついにその後の打席で東尾修選手にピッチャー返しを食らわせました。
門田博光選手の言葉から、恨み憎しみの感情だけでなく、相手の技術の高さを認め、その技術のさらに上を行くという、あふれ出るプロ精神を感じます。
また、3度の三冠王を獲得した天才打者・落合博満選手も、ロッテオリオンズ時代、同様に東尾修選手から頭部にデッドボールを受け、その後の打席でお返しとばかりピッチャー返しを東尾修投手に当てています。
高い技術をぶつけ合うプロの世界では、このようにわざとピッチャー返しをすることもあるのですね。
ただ、もちろんこういったプレーは故意に当てるデッドボールと同様、マナーに反する行為と言えます。
相手を尊重し、気持ち良くプレーする光景が一番ですね。
ちなみに、東尾修選手にピッチャー返しで報復を達成したレジェンド2人とも「ひろみつ」という名前というのが、また不思議な偶然です。
ピッチャー返しは、時に選手生命にも関わる大けがにつながる恐れも
もちろん、通常はわざとではなく、たまたま打球がピッチャーに当たってしまうということがほとんどです。
しかし、一番怖いのはやはり大ケガにつながることです。
元オリックスバファローズの小林慶祐選手は、2017年9月30日のソフトバンクホークス戦で、高谷祐亮選手のピッチャー返しのライナーを顔面に受け昏倒。
右目上部から大量に出血し、すぐに救急車で病院へ搬送されます。
高谷祐亮選手の打球は、小林慶祐選手に当たった後、ライトまで跳ね返る程の強烈な打球でした。
球場で観戦していたファンも、その光景に息をのみ、中には涙するファンもいたほどです。
幸い脳や骨には異常はなかったものの、8針を縫う大けがで、小林慶祐選手はこのシーズンを棒に振ることになります。
ピッチャー返しは、偶発的に起こるプレーに違いありませんが、一つ間違えば選手生命を奪うことも、さらには命の危険さえもあります。
ピッチャー返しを放った大谷翔平選手の直後の行動に、世界が賞賛!
デッドボールを当てたピッチャーがバッターに謝ることは当然ですが、ピッチャー返しをしたバッターがピッチャーに謝ることはあまり見られません。
同じ不可抗力だとしても、デッドボールを受けたバッターはペナルティで一塁に出塁できるのに対し、ピッチャー返しを受けたピッチャーには何も報われるものがありません。
しかし、実際にはピッチャー返しも、大変危険な行為となります。
2023年6月28日、ロサンゼルスエンジェルスの大谷翔平選手が放った強烈なピッチャー返しが、シカゴホワイトソックスのピッチャーのキーナン・ミドルトン選手を強襲。
キーナン・ミドルトン選手はかろうじて打球を交わし、ケガには至りませんでしたが、打った大谷翔平選手は一塁に走りながら片手をあげて「ごめん!」と謝罪の意を示しました。
アメリカのメディアもこの大谷翔平選手の行為を称賛し、讃えています。
お互いが尊重し合いながら気持ち良く全力プレーする姿は、すべての野球ファンの心に響きますね。
ピッチャー返しをわざと狙うのは反則?【まとめ】
ピッチャー返しはバッターがコンパクトなスイングでセンター方向へ打つ際に起こります。
あえてピッチャーを狙うには高い技術が必要で、そのほとんどは、たまたま打球がピッチャーに一直線に向かった結果となります。
しかし、長いプロ野球の歴史には、デッドボールの報復として狙い定めてピッチャー返しを放った選手もいたというのは、驚きです。
打者の後ろに位置するキャッチャーを除くと、打者と一番至近距離でプレーするピッチャーにとって、強烈なピッチャー返しは恐怖そのものです。
それを防ぐための守備力の強化や反射神経の向上が、ピッチャーには求められます。
そして何より、起きてしまった時にはお互いのいたわり合いの精神が欲しいところですね。