多くの変化球の中で、パームボールとチェンジアップの違いがよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
パームボールとチェンジアップは、それぞれ異なる特徴や投球方法があります。
大きな違いは、パームボールは手のひら全体でボールを握ることで変化をつけるのに対して、チェンジアップは握り方の工夫やリリースのタイミングで変化をつけます。
どちらも速球との球速の差を使って打者を惑わせることは共通していますが、具体的な球の握り方や投球方法において違いが見られます。
今回は、パームボールとチェンジアップの違いについて詳しく説明するとともに、往年のパームボールとチェンジアップの使い手投手なども紹介します。
パームボールとチェンジアップの違い
揺れながら落ちる変幻自在の魔球パームボール
パームボールという名前は、投手が手のひら(パーム)を使って球を握る独特な握り方に由来します。
パームボールの握り方は、通常の速球とは異なり、指先ではなく手のひら全体で球を掴みます。
手のひらで押し出すようにして投げることで、球に絶妙な変化を生み出します。
速球と同じ投球フォームでパームボールを投げるため、打者は判別が難しくなりますね。
パームボールの変化は、主にスピンの少なさと、速球との球速差によって生じます。
球速差が大きいため、打者は速球と判断しスイングしますが、球は思ったよりも遅く変化し、タイミングを大きく外され、空振りを取ることができます。
その軌道は投手によって異なりますが、通常は縦の変化や、浮き上がるような変化となり、「揺れながら落ちる」と形容されることもあります。
投手がパームボールを習得するためには、正確なコントロールが必要です。
握り方やリリースのタイミングを微調整することによって、変化のバリエーションを増やすことが可能です。
変幻自在の魔球と言ったところでしょうか。
チェンジアップはリリースの瞬間に力を抜いて球の回転数を抑える
チェンジアップは、主に速球との球速差を利用してバッターを欺くための変化球です。
特徴として、通常は速球とは異なる握り方をします。
その握り方は様々で、握り方によって微妙に変化の軌道が異なります。
リリースの瞬間に力を抜くことで、球の回転数を減らし、打者の手元付近で沈んだり、横へ滑り落ちるような変化をもたらします。
速球と同じ投球フォームと腕の振りで投げるため、打者に直球が来ると思わせることができます。
しかし、実際には速球よりも遅い球が来るため、打者を混乱させ、タイミングを外すことができます。
このあたりはパームボールとも共通していますね。
投げる精密機械小山正明選手は、あの王貞治選手をパームボールで翻弄した
日本のプロ野球でパームボールの使い手投手と言えば、阪神タイガースや大毎オリオンズなどで通算320勝をあげた名投手・小山正明さんでしょう。
投げる精密機械と呼ばれるほどのコントロールを誇っていた小山正明選手は、1958年に覚えたパームボールを、1963年頃から公式戦でも使うようになります。
この年、それまでカモにされていた読売ジャイアンツ王貞治選手に対し、徹底的にパームボールで攻め続けた結果、1本も本塁打を打たれませんでした。
その翌年、「世紀のトレード」と言われた、大毎オリオンズの4番打者山内和弘選手との交換トレードで、パリーグの大毎オリオンズへ移籍します。
小山正明選手のパームボールはパリーグの打者を大いに翻弄し、自己最多の30勝をあげています。
小山正明選手は、テスト生として阪神タイガースに入団し、現役通算21年で320勝をあげています。
パームボールという一つの球との出会いによって、野球人生が大きく羽ばたいたことになったわけですね。
V9のエース堀内恒夫選手はパームボールを覚えたことで一段と飛躍する
チェンジアップを武器にする投手は、近年も多くの投手がいます。
かつては、読売ジャイアンツのV9時代のエース・堀内恒夫さんも、日本のプロ野球にチェンジアップを浸透させた使い手の一人です。
入団1年目から16勝をあげた堀内恒夫選手ですが、1968年にロサンゼルスドジャーズのキャンプに参加した際にチェンジアップを覚えます。
そのチェンジアップが完成し、公式戦で頻繁に使うようになった1972年、堀内恒夫選手は自己最多の26勝をあげます。
現役中、腰痛などの故障を抱えていた堀内恒夫選手が、18年もエースとして投げ続けられたのは、肩や肘に負担の少ないこの球を習得したことが理由の一つかもしれませんね。
パームボールとチェンジアップの違い【まとめ】
パームボールとチェンジアップは、いずれも速球と同じ投球フォームで速球よりも遅い球を投げる、打者を欺くための変化球です。
しかし、詳しく見ていくと、その握り方やリリースの方法などに違いが見られます。
投手は自身の投球スタイルなどに合わせ、これらの変化球を使い分け、打者と勝負することとなります。
特に現在のプロ野球は、力でねじ伏せる投球よりも、データを駆使し、打者との緻密な駆け引きによる頭脳戦が主流です。
パームボールとチェンジアップのように、打者を欺く変化球は、今の時代にマッチした変化球なのではないでしょうか。
その違いを理解したうえで、さらに投手が実際に試合で繰り出す変化球に注目してみるのはいかがでしょうか。