ナックルボールという変化球をご存じでしょうか?
ナックルボールは数ある変化球の中でもかなり変わった握り方と変化をする球です。
指の第一関節の外側で球を掴み、突き出すようにして投げることで、球の回転をころし、ゆらゆらと不規則に揺れながら曲がり落ちる球です。
打者はタイミングを合わせることができず、確実にとらえることは困難でしょう。
しかし、その独特な特徴が故に、これまで日本のプロ野球選手でナックルボールを使いこなせた選手は少ないです。
これほど打者が打ちにくい変化球を、日本人はなぜ投げないのでしょうか?
それには、ナックルボールを習得する難しさと、様々なリスクがあるからです。
今回は、ナックルボールがどのような球か紹介するととともに、日本人はなぜ投げないのか?という疑問についても考えていきたいと思います。
ナックルボールをなぜ投げないの
その独特な握り方や投げ方は、木の葉のような変化球とも呼ばれる
ナックルボールの特徴は、まずその握り方にあります。
通常は、球を握るときは指の腹を球に添わせる形となりますが、ナックルボールは人差し指と中指、薬指を折り曲げて、3本の指の第一関節の外側(爪の方)で固定します。
人差し指と中指2本の場合もあります。
リリースの時にその折り曲げた指で球を突き出すようにして投げることで、球の回転をころし、球に不規則な変化をもたらします。
その変化は、縦に落ちたり、左右に揺れながら横滑りしたりと、予想がつかない変化をしながら打者の元まで達します。
そのため、木の葉のような変化球などと形容されることもあります。
ナックルボールは決められた変化がなく、いわば何種類もの変化球を投げているのと同じこととなるので、ナックルボールだけで打者を抑え込むことも可能です、
打者はナックルボールが来るとわかっていても、どのような変化をするのかまでは読めないため、狙い球を絞ることが困難になります。
その独特の変化はコントロールが難しく、捕手も捕りにくい
ナックルボールは独特の握り方で、大きく振りかぶらずに、ややゆっくりとした投球モーションで投げます。
基本的にスローボールとなるため、変化の仕方によっては、打者にとって絶好球となってしまいます。
ナックルボールの変化を緻密にコントロールすることは難しく、また風や雨のような天候にもその球の動き方が影響を受けます。
確実にキャッチャーミットに収まるまではどのような変化をするのかわからないため、打者だけでなく、受ける捕手にとってもその変化に対応し、キャッチすることが難しい球です。
これらのデメリットから、ナックルボールをなぜ投げないか?という疑問もわかるような気がしますね。
日本で唯一ナックルボールをコントロールした省やんボールの球速は50km!?
日本人はナックルボールをなぜ投げないのか?
それは、そもそも完全にマスターしにくい球であるということと、日本人の投手はコントロールを重視する傾向にあり、制球の定まらないナックルボールは使いにくいと思われています。
その中でも、かつては果敢にこの難易度の高い変化球にチャレンジした投手がいます。
1952年に大阪タイガース(阪神タイガース)に入団した渡辺省三選手は、速球派になれない自分の投球スタイルを自覚し、生き残るために、あまり知られていないナックルボールを習得します。
当時は単純なスローカーブと思われたナックルボールは、時に50kmの超スローボールになったという伝説があります。
この超スローナックルボールを駆使し、通算134勝を挙げています。
渡辺省三選手はナックルボールを絶妙なコントロールで操ることのできた、唯一の日本人かもしれません。
その魔球は、渡辺省三選手の朴訥とした人柄にもなぞらえて「省やんボール」と呼ばれ、後のチームの大エースとなる村山実選手や小山正明選手の良きお手本になりました。
女性プロ野球選手ナックル姫は、コントロールの難しさに苦しめられた
もう一人、ナックル姫と呼ばれ注目を浴びた女性野球選手の吉田えり選手も有名です。
吉田えり選手は、身長155cm体重55kg。
高校時代、男子との体格差や体力差をカバーするため、ナックルボールを習得。
社会人を経て、2008年に関西独立リーグの神戸9クルーズに入団します。
これにより、男性と同じチームでプレーする日本人初の女性プロ野球選手となりました。
プロではサイドスローから最速101kmのストレートと80km台のナックルボールとカーブを投げていました。
しかし、肝心のナックルボールのコントロールが定まらないことが多く、現役後半はカーブやシュートを主体とするスタイルに変えています。
数々の球団を渡り歩いたり、アメリカ球界への挑戦など紆余屈折がありましたが、やはりプロの壁は厚く、際立った活躍はできませんでした。
2017年から女子野球エイジェックに投手兼コーチとして在籍していますが、2023年には31歳で再びメジャーリーグへ挑戦するなど、そのチャレンジ精神は衰えていません。
性差や体格・体力差を越え、ナックルボールという不世出な魔球を武器に、果敢に高い壁に挑み続けるその生き方は、今後も称賛されるべきではないでしょうか。
ナックルボールをなぜ投げない?【まとめ】
今回は、まさに魔球と言えるナックルボールについて紹介しました。
日本人はナックルボールをなぜ投げないのか?という疑問については、その習得の難しさや、予想のつかない変化、コントロールの難しさなどがあげられます。
しかし、他に誰も使っていないからこそ、自分の持ち球として積極的に使ってみる価値があるのではないでしょうか。
ファンは、剛速球だけでなく、見たこともないような魔球にも胸躍らせます。
新たな時代に、ナックルボールの新しい使い手がまた誕生するのをとても楽しみにしたいですね。